ボブ・ディランの曲から生まれた映画。
最近ボブ・ディラン界隈が賑わっていたけど、そのボブの代表的な曲の一つに「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」がある。
いや、正直ワタシ、ボブ・ディランは人生でカスっていなかった。
ノッキンオンヘブンズドアという映画を見るまでは。
このノッキンオンヘブンズドアの監督、トーマス・ヤーンは、タクシーの運転手で生活していたところを、若手俳優のティル・シュヴァイガーが、偶然客としてタクシーに乗ってきたところ、映画の話をしているうちに意気投合し、トーマス・ヤーンは、今まで書き溜めた脚本を見てもらうとティル・シュヴァイガーに送ったのが制作されたきっかけらしい。
その中でトーマス・ヤーンが、ボブ・ディランの名曲「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」から着想を受けて書いた脚本をいたく気に入ったティル・シュヴァイガーは、自分の製作で映画化することを提案したとのこと。
ボブ・ディランの楽曲から映画が生まれてるんだぜ。
さすがだろ。
【ストーリー】
余命わずかと宣告され、たまたま末期病棟の同室に入院させられたマーチンとルディ。
二人は死ぬ前に海を見るために病棟を抜け出し、ベンツを盗んで人生最大の、おそらく最後の冒険へと出発した。
その車がギャングのもので、中に大金が積まれていたことも知らずに…。
道中、残り少ない命の彼らに怖いものなどなく、犯罪を繰り返し、ギャングのみならず、警察からも追われる身になるのだが…。
【キャスト】
ティル・シュヴァイガー
ヤン・ヨーゼフ・リーファース
ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ
モーリッツ・ブライプトロイ
【スタッフ】
監督:トーマス・ヤーン
脚本:トーマス・ヤーン/ティル・シュヴァイガー
製作:ティル・シュヴァイガー/アンドレ・ヘンニッケ/ トム・ツィックラー
誰もが想像するであろう自分の死に際
自分が死ぬ時ってどんな状況になるんだろうって誰もが一度考えたことがあると思う。
病気かもしれないし事故かも知れないし。
そんなこと考えると絶対病院のベッドの上で医者や家族に看取られてさよならなんて勘弁だなって思うんだよ。
いや、もちろんそれが良いっていう人も当然いるんだろうけど、ワタシは嫌だ。
だって本当に人生で最後だぜ?
もし体が動くのなら、自分の好きなことやって好きな場所で死にたいじゃん。
「天国で流行ってるのは海の話題だぜ」
なんと言ってもこの映画は主人公の二人、マーチンとルディのキャラクターが良い。
この映画の主人公の二人は、一人が破天荒な肉食系、一人がクソ真面目草食系のコンビだ。
同じ病院で検査を受けたらどちらも余命わずか、即入院となってしまった上に同室となってしまった。
そこから全てが始まる。
フツーに暮らしていたら、まず出会わなかっただろうし、出会っても友達になることはまずなかったであろう2人の男。
そして二人は、死ぬ前にしたいことリストをつくり、それを果たすために病院を抜け出す。
最終目的地店は海だ。
「天国で流行ってるのは海の話題だぜ」
「んじゃ、死ぬ前に見に行くかしかねえだろ。」
なんだよこれ、カッコイイだろ。
この映画そんなノリで始まる映画だ。
死ぬ時だってノリが大事だよ。
死ぬ時こそ人生最大のノリだろ。
あとで知ったことだけど、破天荒マーチンの苗字はブレスト。
この名前は、『ミッドナイト・ラン』の監督と同じ名前だ。
マーチンを演じたティル・シュヴァイガーは製作と脚本にも名があるから、絶対『ミッドナイト・ラン』に影響されてるな。
男二人のロードムービーだしね。
脚本自体はありがちなストーリーだし、銀行強盗、警察、ギャングの金、拳銃、高級車などの設定が出てくる。
これだけ見ればハードボイルドを連想させる。
でもアホで憎めないギャングコンビ。この映画で一番の粋な男のギャングのボス。間抜けな警察。さっさと金を渡す銀行員。
みんなキャラがいいし、テンポがいい。
それでも、派手な銃撃戦はあっても、誰も死なないんだよ。
この映画、死ぬのは二人の主人公だけなんだ。
そのラストシーンは秀逸。
二人は死を受け入れ、寄り添って海を見る。
この海がいい。綺麗じゃない。
綺麗な海がイイとか言う奴。今死ね。
なんか荒れてる濁ってるし、汚い。
でも、死に際に見る海はどんなものでも綺麗なんだな。
だってここまで生きてきたんだから。
そして、映画タイトルにもなっているボブ・ディランの名曲『ノッキンオンヘブンズドア』を、ドイツの人気バンド「ゼーリッヒ」がカバーした曲が絶妙なタイミングで流れ始める。
まさに鎮魂歌として、この旅の終わりを告げている。
ここまでマーチンとルディと一緒に海まで旅をしてきたんだから感動するなという方が無理だろ。
受け身になってただ医者に身を任せ、天国からお呼びがかかるのを待つか?
そんなんじゃ、天国で海の話題についていけなくなっちまうぜ。